耕水原理

耕水原理の特性と効果

(12)透明度が生態系に適合するように自動調整される

 透明度を水質悪化の目安にする向きがある。これは、光が底泥に照射されないと、底泥が酸欠になり、それが水質の悪化と直結しているところから来るものである。しかし、耕水原理のように、層流のローテーション効果で、底泥に酸素が常時供給されている場合は話は別で、透明度にこだわる必要は無い。透明でなくても底泥は酸欠にならないし、水質も悪化することはない。高いも良し、低いも良しで、透明度についての規制は不要である。
 底泥が堆積し、水生昆虫や魚介類が棲息している自然の水は、微生物のフロックを必要としているものである。そのフロックの分散量、つまり透明度は、池・湖沼・入り海に含まれる負荷に左右されている。水底に堆積しているヘドロの量と、水生生物の量と、流入するリン・窒素などの負荷に左右されていて、これらの負荷にマッチするように、透明度は、バイオファンによって自動調整されているものである。
 フロックが分散していない透明な水は、ただの無機質である。魚介類を育む力も、水を浄化する力も備わっていないH20に、自然の水を近付けようとする試みはいろいろなされているが、これは、大自然の自浄の原理を冒涜する行為である。凝集剤や特殊な微生物を投入して透明にすると、生態系の絶妙なバランスが破壊されてしまう。
 だから何もしない。水を耕すだけで、透明度のことは、大自然の自浄の原理に任せて、見守っているだけである。

 底泥に酸素が供給されて活きた水底で、動物プランクトンが生産されるようになると、その一部は、水中に浮遊しているアオコや大腸菌などと一緒になり、太陽の紫外線を嫌って凝集する。凝集して生じたそのフロックは、水生生物の餌である。
 フロックが増加するにつれて、透明度が下がり始めるが、これと並行して、フロックを餌にする、水生毘虫や、メダカのような小魚、稚魚、貝類などが、丈夫に大きく育って増え始めるようになる。すると今度は逆に、フロックの消費が盛んになって、透明度が上る方向へ移行する。こうしたメカニズムしたがって、透明度は、フロックと水生生物量との釣り合いが取れたところに、自然に調整されているものである。
 この透明度と水生生物のバランスを崩すのが、水生生物を漁る、コイ、ウナギ、ブラックパスなどである。これらの魚が増えて、フロックを餌にしている水生生物が減り始めると、フロックが再び上昇し、透明度が下がる方向に移行する。そのため透明度は、新たに形成されていく生態系にマッチしたところに、自然に落ち着いていくことになる。
 このように、バイオファンで食物連鎖のピラミッドの土台が形成されて、食物連鎖に拍車がかかり、食物連鎖が円滑に機能している池・湖沼・入り海の透明度は、魚介類や底泥の量と、流出入するリン・窒素の量に合わせて自然に調整されているものである。したがって、透明度のことは、自然に任せて置かねばならない。これに手を加えて、凝集剤や特殊な菌を投入し、大自然の自浄の原理に逆らって、透明度を無理に上げて、自然のバランスを壊すやり方には、生態系の破壊を招く危険がある。
 ダム湖は別として、魚介類が棲息している自然の池・湖沼・入り海にとって、透明は必ずしも好ましい状態とはいえない。底泥の消滅で、水を浄化する水底の濾過床の活力が衰えて、水の浄化材であるフロックも無くなって水が透明になると、水を浄化する作用も、魚介類を育む活力までも失われて、ゴーストタウンと化してしまう。
 もし、飲料水のように、特に透明度が要求される場合は、底泥を魚介類に変換し、漁獲量を増やして、先ず底泥を無くすことである。底泥が無くなった時点で次にすることは、魚介類を減らしていき、リン・窒素が外部から流入しないようにして、バイオファンを回し続けることである。これに降る雨の効果が加わると、"湖沼浄化方程式"どおりに、年々確実に透明度が増していくようになり、摩周湖のように磨かれた貯水池が得られるようになるのも夢ではない。